3.3のシツモン
「33の質問」という1986年に出版された本がある。詩人の谷川俊太郎が色々な人達に33個の質問をして回答してもらうというシンプルな企画をまとめた内容になっている。
東京オペラシティで開催していた谷川俊太郎展では、その現代版として33の質問から選ばれた3問に新しく0.3の質問を加えて「3.3の質問」という新プロジェクトの展示をしていた。
いとうせいこうやみうらじゅんを始めとする各界の著名人の回答は、哲学的かつ刺激的だったが、それ加えて思考した跡がクッキリと見えた。
そこで僕は33+1個の質問に自分でも答えてみることにした。
1.金、銀、鉄、アルミニウムのうち、もっとも好きなのは何ですか?
銀。なんでも2番目が自分に合っている気がするから。
2.自信をもって扱える道具をひとつあげて下さい。
言葉。そう答えざるを得ない。言葉に自信を持っていなければ、人との対話ができなくなってしまうから。
3.女の顔と乳房のどちらにより強くエロチシズムを感じますか?
圧倒的に顔。道端に誰のものかわからない乳房が転がっていても、何事もなかったかのように通り過ぎると思う。
4.アイウエオといろはの、どちらが好きですか?
いろは。口に出したときに、10℃くらいあったかく聴こえる気がする。
5.いま一番自分に問うてみたい問いは、どんな問ですか?
勇気はいつ必要なのか。
6.酔いざめの水以上に美味な酒を飲んだことがありますか?
何度も浸り直す思い出に登場する酒たちは、時間をかけて神格化されて再現性のカケラもない味になっている。
7.前世があるとしたら、自分は何だったと思いますか?
生きることが上手ではないので、人間は1周目だと思う。
8.草原、砂漠、岬、広場、洞窟、川岸、海辺、森、氷河、沼、村はずれ、島―どこが一番落ち着きそうですか?
流れがある水辺が好きだけど、海辺ではなかなか気が抜けないから一番は川辺かな。特に綺麗に舗装された都会の川辺が好き。
9.白という言葉からの連想をいくつか話して下さいませんか?
ワイシャツ、子供の肌、アヒル。白のイメージには純粋さと柔らさが付いてくるみたい。
10.好きな匂いを一つ二つあげて下さい。
古い記憶の中で父親が仕事に行くときにつけていた香水の匂い。
白い湯気が充満した温泉の檜風呂の匂い。
11.もしできたら「やさしさ」を定義してみて下さい。
短期的には甘やかすこと、長期的には叱ること。
12.1日が25時間だったら、余った一時間を何に使いますか?
この世で自分だけが24〜25時の間に動けるのだとしたら、悪用してしまうだろう。そうではなく、みんなの時間が平等に1時間増えたらという仮定なら、特別な使い方にはならないはず。時間的寿命は変わらず、年月的寿命が減るだけ。
13.現在の仕事以外に、以下の仕事のうちどれがもっとも自分に向いていると思いますか?指揮者、バーテンダー、表具師、テニスコーチ、殺し屋、乞食。
向いている以前に、自分に出来そうな仕事がひとつも見当たらない。
14.どんな状況の下で、もっとも強い恐怖を味わうと思いますか?
人間は恐怖に囲まれている。その恐怖を原動力にすることも少なくないから、恐怖の感情はとても大切なものだと言えるはずだ。激しい矛盾を孕んだ答えになってしまうが、一番怖いのは恐れるものが何も無くなった状況だと思う。
15.何故結婚したのですか?
結婚はしていないし、今後もすることはないと思う。今や、結婚には幸せの定石としての力はない。
16.きらいな諺をひとつあげて下さい。
死人に口なし。
17.あなたにとって理想的な朝の様子を描写してみて下さい。
窓から差す陽の光で起きたら、同じ部屋で好きな人が寝ている。
18.一脚の椅子があります。どんな椅子を想像しますか?形、材質、色、置かれた場所など。
大量生産された鉄の丸椅子。
19.目的地を決めずに旅に出るとしたら、東西南北、どちらの方角に向かいそうですか?
目的もなくと言われれば、西。見知った場所も多くて、暇をつぶすのには苦労しないだろうから。
20.子供の頃から今までずっと身近に持っているものがあったらあげて下さい。
タオル地のぬいぐるみ。無いと寝れないとまでは言わないけれど、あれば落ち着く。
21.素足で歩くとしたら、以下のどの上がもっとも快いと思いますか?大理石、牧草地、毛皮、木の床、ぬかるみ、畳、砂丘。
木の床。光を跳ね返す板を踏み込めば少し鈍い音がする。かかとから指先まで丁寧に足の裏をつけて、ひんやりとした温度を味わう。夏でも冬でも。
22.あなたが一番犯しやすそうな罪は?
無意識で犯してしまうような罪だろうから、この問いを考えてすぐに思いつく罪ではないと思う。
23.もし人を殺すとしたら、どんな手段を択びますか?
人を殺すなら自分も死ぬ。殺す人とほぼ同時に死ねる方法を選ぶはず。崖から一緒に飛び降りるとか。
24.ヌーディストについてどう思いますか?
僕にはヌーディストの知り合いが一人もいないので、気になることだらけ。一晩だけでも良いから話してみたい。いつからヌーディストなのか、なぜヌーディストになったのか、ヌーディストと自ら名乗ることはあるのか。
25.理想の献立の一例をあげて下さい。
夜ご飯に友人を誘うもあっけなく全員に断られてしまい、しょうがなくひとりで食べるいつものチャーシューメン。
26.大地震です。先ず何を持ち出しますか?
逃げなくては死ぬような地震が来たら、ラッキーだと思って死んでしまうかもしれない。
27.宇宙人から<アダマペ プサルネ ヨリカ>と問いかけられました。何と答えますか?
音声を介したコミュニケーション方法を人間に試みてきたことから、人間についてある程度の情報を持っている可能性があるので、地球で使われている言語なのか調べる。
28.人間は宇宙空間へ出てゆくべきだと考えますか?
出て行きたい人は、出て行けばいい。
29.あなたの人生における最初の記憶について述べて下さい。
2,3歳で引っ越しをした。その直後は、母親と一緒に毎朝電車で保育園に通っていた。小さいながら愚痴も言わない僕に、母は乗り換えの駅でコーンポタージュを買ってくれていた。熱くなくなるまで渡してはくれないし、飲めてもコーンの粒は取りきれないし。とにかくじれったい感情が、薄暗い地下鉄のホームに張り付いている。
30.何のために、あるいは誰のためになら死ねますか?
自分のためになると思えば死ねる。人のために死ぬことが自分のためになると思ったとしたら、それは誰のためということになるのかはわからないけれど。
31.最も深い感謝の念を、どういう形で表現しますか?
その人がしてくれた形で。友達にはその友達に、恋人ならその恋人にだけれど、親なら子供に、先輩なら後輩にと対象は変わるかもしれない。
32.好きな笑い話をひとつ、披露して下さいませんか?
お風呂で撮った自撮り写真を母親に送ってしまったことがある。無反応でした。
33.何故これらの質問に答えたのですか?
詩人との触れ合い方として、一方的に解釈する以外の方法は珍しく、何か新しい発見があるに違いないと踏んだから。
34. 3と0.3を量ではなく質として比べた場合、どちらが純度が高いでしょう?
0.3であってほしい。3はあまりに完璧で安定していて凝り固まっていて詰まらない大人みたい。
月日が経ったとき、同じ質問に対する答えはどう変わるのか。それがわかるのは今から30年後。